コラム

13年目を振り返って。パン講師としてのわたし〈後編〉

2022/12/09

13年目を振り返って。パン講師としてのわたし〈前編〉からの続きです。

レシピの変化

私の教室でお伝えしていたパン。

最初はストレート法といって、35℃で1時間ほど1次発酵をとるパン作りをお伝えしていました。パン教室を10時からスタートしようと思うと、8時過ぎにパンをこね、1次発酵をスタートする必要がありました。それは、子どもが泣いていようと、何があっても!です。

そんな運営が大変で、何か良い方法はないかと模索した時に取り入れたのが「冷蔵発酵」生地を冷蔵庫に入れて発酵させる方法。これは、前日に準備ができるので、私にとって、家族にとって画期的な方法でした。

生徒さんからのご要望で、「朝焼きたてパンが食べたい!」というものが多く、ご期待にこたえる形で『スティックパン』『ドデカパン』が生まれましたが、その前は「丸めをきちんとすれば温め直したパンでも十分においしいからきちんと作る方法を身につけてね」なんて話をしていました。以前執筆していた『ミキハウス子育て総研 ハッピーノートの輝くママ』にもそう書いています。

そこから時は流れ、今は「忙しいママが毎日焼けるパン」をテーマに、必要な工程だけ残して、省ける工程はそぎ落としたパン作りをお伝えするようになりました。

イーストは0.5%、発酵は冷蔵庫にお任せで、油脂は入れたり入れなかったり。こねるのは、ボウルの中で少し合わせる程度。分割、丸めもなく、仕上げ発酵もなしで焼成はオーブンではなくトースターやフライパン、魚焼きグリルを使います。

冷蔵庫に生地を入れておけるのはとても便利で、パン教室を運営するうえでもとても助かりましたし、ひとりの母としてもとても助かりました

このアイディアって、私の場合、急にピカーンっ!と思いつくのではなく、自分自身の体験や生徒さんとのやり取りの中のヒントをもとに試作をしてたどり着いていることが多いです。 教室を運営するのに生地を準備するのが大変ということは、きっと「自宅でパンを焼いているママたちも大変だから改善したい!」、そんな思いの積み重ねです。 みなさんからのご意見がいつも頭のどこかにあって、何気なく毎日過ごす中でその答えを自分なりに見つけています

生徒さんはママが多いので、毎日子どものために焼けるパンを求めていました。

  • 毎朝焼きたてのパンを食べさせる方法はないか?
  • どうしても工程が長いと、途中で子どもがお昼寝から起きてパンを放置することになる!なんとかならないか?
  • もっと栄養の取れるパンを焼いてあげることはできないか?

などなど、生徒さんからのご意見にまじめに取り組んだ結果が今のパン作りです。 もちろん私自身子育て真っただ中だったので、パン作りが好きな私ですら大変と感じていたのですから、生徒さんたちはきっともっと大変な思いをして子どもたちのためにパンを焼いているのだろうなと、考えました。(スティックパン物語に続く。)

教室を実際にしていたころは、難しくないとパン教室としての価値がないと思い込んで、自家製酵母のパン作りをお伝えしたり、ハード系のパンをうまく焼く方法をお伝えしたりしていました。 それはそれでしたが、「でも違った!」。私がみなさんに伝えるべきパン作りはそれではなかったと反省しています。

吉永麻衣子が伝えたいパンとは

必要な工程だけ残して、他はそぎ落とした結果生まれた『ちょい足し酵母』

ちょい足し酵母パン

今お伝えしているパン作りが今の私にはとてもしっくりきます。

忙しいママでも毎日焼けるパン作り。 必要な工程だけ残して、他はそぎ落としちゃいました。形はとっても武骨です。大きさもまちまち。 考え方も変えて、自分の変なこだわりは捨てて、子どもの笑顔のためだけを考えて作り方を組み立てるようになりました『ちょい足し酵母』がまさにそれです。

自家製酵母のパンを作る世界って、釣りで言うと天然の魚を釣るようなもの。海の磯に、船で渡船屋さんにあげてもらって、そこで釣り竿一本で釣る!そんなのがまさにかっこいい釣りです。(父は根っからの釣りバカ) もしかすると私の『ちょい足し酵母』というものは、その海に魚を放ってそれを釣っているだけ、そう感じる人もいるのかもしれません。

実際に私自身、以前はそう感じていました。これをドーピングなんて表現する人もいます。それも知っています。

でもいいんです! 釣れて(=おいしいパンが焼けて)子どもが喜んでくれれば! 趣味で焼くパン、家族のために焼くパン、別物なんだと理解しました。『ちょい足し酵母』は、いいとこどりのパン作りです。

ちょい足し酵母パン半分に切った形

自家製酵母のパンはおいしいです。自家製酵母にはたくさんのうまみが詰まっています。 でも、膨らまないことがある。そのリスクが子育て中の私には困るので、うまみを自家製酵母から、そしてふくらみはインスタントドライイーストからもらおう!というのが『ちょい足し酵母』です。

「自家製酵母だけで膨らませないと嫌!ダメ!気に入らない!」と思っていましたが、いやいや、今はいったんそれを忘れて、「子どもが食べておいしいパンを焼こう!」と思えたら気持ちが楽になりました

魚釣りだって、磯で釣り竿一本で勝負する楽しみ方と、魚がどこにいるのか見えるような釣り堀で釣る楽しみ方とあってよいのと同じです! いつか自分に時間ができた時に、趣味で焼くパン作り、存分に楽しもうと決めています。 それを楽しみに、今は今できる作り方でパン作りを楽しみますそして、今一緒にパン作りを楽しむ仲間とともに、一緒にパン作りを通して楽しい未来を描いていきたいと思っています。

教室のスタイルの変化

もうひとつ大きなチャンスをくださったのが、『Smiley House』の綾子先生でした。

キッズ向けのスポーツ教室をされているのですが、「うちに通ってくれる生徒さんたちに食の面でもご提案したい」とご相談いただき、そこで開催したのが、『おうちパン講座』です。現在全国の幼稚園・保育園で開催している日々のパンの教室の原型となります。

私はそれまでパン教室は参加者全員でこねて、成形して、焼いて、食べて・・・。「みんながパン生地を触るのがパン教室だ」と決めつけていました。

でも、そのスタイルは変わりました

パン作りを講師がデモでお見せするだけ。参加者は子どもを足元で遊ばせたり、おんぶしながら見る。メモを取るもの大変であれば動画も写真もOKで、ご試食もひとくちずつ。参加費も1000円程度。1時間完結のパン教室。焼くのはトースターかフライパン。

すごく勇気がいりましたが、そんなことをしているうちに、パン作りを楽しんでくださる方が増え、私のこれまでの決めつけってなんだったんだろうと思いました。

家族の笑顔のためにパン作りを提案し続ける。

これまで私は「これはこう!」と決めつけてやってきました。そこからは少し変化して、自由な発想でパン作りをご提案できるようになりました。私のパン作りは、プロの方からみたらびっくりかもしれません。

でも、今はこのパン作りが私の生活にはフィットしています。きっと子育てしていたり、お仕事していたり、忙しい方には楽しんでいただける方法だと思います。

その先に、「家族の笑顔があること」、それを目的に今はパンを焼こうと思います。もっともっとたくさんの方にお届けできるように、そして、もっともっと簡単においしいパンが焼けるように、がんばります。

こうして言いきれるようになったのは、本を出版するチャンスを下さった出版社、講座の場所を提供してくださっている方、そして生徒様、読者様、アンバサダーの皆さん、ご一緒してくれる日々のパンの講師からの声がけがあったからです。

恵まれた環境で、私のやりたいようにレシピ提案をさせていただけることを、心から感謝します。おうちでママがパンを焼けば、そこに住む家族はニコニコ幸せな時間を過ごしていただけると思います。そんな「小さなハッピーの積み重ねで、世界中がハッピーになればいいな」なんて大きな目標を掲げて、進んでいきたいと思います。

現在、日々のパンは全国の幼稚園・保育園で無料で「日々のパンの教室」を開催しています。全国の親子全員に一度はパン作りを体験してもらいたいと目標を掲げました。やりたかった形になり、本当に嬉しく思っています。2022年スタート。これからまた講師のみんな、スポンサー様と一緒に広めていきます。

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